備忘録:ジュニア世代のオーバートレーニングとウェイトトレーニングについて

10/9(月)スポーツの日に2回目のコーチスキルアップ事業があり、講師に橋本智子さん(日ス連ノービス担当)、辻麻希さん(ソチオリンピック出場)を迎え、ジュニア向けの指導方法についてご教示頂きました。

その際、かねてから清川が興味を持っていた2つのこと、ジュニア世代(※)の「オーバートレーニング(慢性疲労状態が続くことで競技成績やトレーニング効果が低下すること)」と「ウェイトトレーニング」について橋本さんに伺いました。

どちらの興味もジュニア世代のトレーニングを見ていて「もう少しトレーニング負荷を上げるとこの子は伸びそう」、「ウェイトトレーニングをすればこの子は伸びそう」などと素人考えながら思うことがあってのことです。

「でも果たしてそうしたアドバイスを不用意にしてしまっていいものか」と疑問に思っていたので質問させていただきました。

全日本ノービスヘッドコーチの橋本さんから回答を頂けた貴重な機会だったので、ここに備忘録として残します。

※ジュニア世代について定義のしかたは色々あると思いますが、この記事の中では小・中学生を指すものとし、高校生は含まないものとします

オーバートレーニングについて

まず1つ目の質問はこんな主旨でした。

「ジュニア世代は体格や体力のばらつきが大きく、同じトレーニングをしていてもそれに対する個々人の疲労度は大きく異なると想定される。そんななか、ジュニア世代は自身で気づかぬままにオーバートレーニングの状態になってしまうケースが懸念される。橋本さんは何かジュニア世代のオーバートレーニングに関して気をつけていることはあるか?」

橋本さんの回答は、主に次のような主旨だったと記憶しています。

「確かにジュニア世代のオーバートレーニングの発見は簡単ではない。自身は、指導している子供たちの様子をよく観察するように心がけている。練習時の様子(表情など)だったりパフォーマンスだったり。また、コミュニケーションをとって様子を聞くことも大切。」

コーチ陣は選手のことをよく観察すべきこと、またコミュニケーションをとって選手の状態を把握していくことが大切と理解しました。

スポーツトレーニングは、より大きな負荷の運動をすることで効果が得られるという原則がある一方、オーバートレーニングとなってしまうと逆にトレーニング効果が落ちてしまったりモチベーションを失ってしまうことが懸念されます。

ジュニア選手たちが最大限のトレーニング効果が得られるよう、コーチ陣と保護者の方々は、選手をよく観察し十分にコミュニケーションをとっていくことが大切だということでしょう。

ウェイトトレーニングについて

2つ目の質問はこんな主旨でした。

「昔、『ウェイトトレーニングは子供たちの成長を妨げるため、大人になるまではやらないほうがいい』という神話があったが、最近ではこの主張に科学的根拠がないことがわかり、むしろ子供のウェイトトレーニングを推奨する意見も少なくない(Faigenbaum, 2000; Dahab & McCambridge, 2009 など)。橋本さんは、ジュニア世代の子供たちにウェイトトレーニングをどの程度させているのか?」

橋本さんの回答は以下のようなものだったと記憶しています。

「『ジュニア世代のウェイトトレーニングは良くない』という神話のようなものに科学的な根拠がないというのはその通り。自身も、特に中学生世代のスケーター達のトレーニングにもっとウェイト系のもの取り入れたい気持ちがあるが、幸か不幸か、トレーニング施設の制約があって十分に取り入れられていない。」

木村コーチからは以下のコメントがありました。

「SIGNEIGHTではバーベルやダンベルを使ったウェイトトレーニングの代わりに、階段などをうまく利用して負荷の高いトレーニングを行う工夫をしている。子供たちを指導する際は、筋肥大よりも筋肉に神経を通すことを優先しており、よりテクニカルな部分を伸ばしてもらえるよう意識している。」

ジュニア世代のウェイトトレーニングを取り入れることはやはり問題ないと理解しました。

一方で、橋本さんも木村コーチもそれを認識しつつも、現状では特にバーベル等を用いたウェイトトレーニングには大きな比重を置いていないように思われました。

ウェイトトレーニングは安全管理の問題もあるのでなかなか子供たちのみで取り組ませるのは難しい実状もあると思います。そんな中で木村コーチがやっているように、ウェイト器具を使わずに高負荷のトレーニングを取り入れるのは良い案だと思いました。

ちなみに上に挙げたFaigenbaum(2000)によると、若い子供たちのウェイトトレーニングは筋力を増やすメリットがあるだけでなく、骨の中にあるミネラルの密度を高めたり、技術的な動きに関する運動能力を上げたり、スポーツ全般のパフォーマンスを高めたりと様々な効果が確認されているようです。

安全に配慮し適切な指導のもとに行えるのであれば、ウェイトトレーニングはジュニアアスリートにとってプラスになるでしょう。

2回にわたるコーチスキルアップ事業では、ジュニア世代の指導に関して色々学ぶこと、気づかされること、考えさせられることがありました。クラブのメンバーにとっても様々なことを吸収できる貴重な機会だったと思います。

講師の橋本さん、辻さん、ありがとうございました。

引用文献:
Faigenbaum, A. D. (2000). Strength training for children and adolescents. Clinics in sports medicine, 19(4), 593-619. https://doi.org/10.1016/S0278-5919(05)70228-3

Dahab, K. S., & McCambridge, T. M. (2009). Strength training in children and adolescents: raising the bar for young athletes?. Sports health, 1(3), 223-226. https://doi.org/10.1177/1941738109334215

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